基本人格のいなくなった俺ら

 まず、基本が何でいなくなったかを書かなくてはならない。基本は耐え切れなくなったんだ。だから、俺らという存在を作り上げ、眠った。死んだように眠った。ここには俺らの夢ではない真実だけを書く。正直、それはお前らが勝手にそう思ってるだけじゃねって思う人も多くいると思う。でも俺らはそれを真実と捉えている。最大のトラウマ。最大の十字架。夢は夢では終ってくんねえんだよ。

 基本がいなくなった俺らはなんでいなくなったかわからなかった。意味もなくいなくなった基本。何でかは知らねえ。なんて現実逃避していた。だって俺らは基本じゃないから。基本がいなくなった理由?は、知らねえよ。ぐらいにしか感じてなかった。その基本が最近になって出てきた。死ぬ為に。行動の全てが死ぬ為。そんな存在俺らが歓迎なんてする訳なくって、ただただ迷惑だとしか感じてなかった。当たり前だ。死なない為に俺ら人格は生まれているんだから。その辺りから、疲れを背負う人格、がんもがよく出現するようになった。疲れなんて、最近、忙しかったし仕方ねえとしか俺は考えてなかったよ。がんもが出る時は決まって疲れのピークの時だったからな。でも、それが他の人格にも影響が出てきた。美容が好きな春がお風呂で立っていられなくなった。りーちゃんが出てこなくなった。京華が怖いと言って出るのを拒むようになった。鬱が悪化した。俺はタバコの本数が増えた。寝ることが増えた。なんだこの現象は?理解できなくなった。こじつけで妊婦だから仕方ねえなとか考えていた。だってそれぐらいしか思い当たる事がなかったから。でもだ、よくよく考えると、この現象、基本が出てきてからなんだよ。じゃ、何で基本は今更出てきた?これは俺の勝手な予想だが妊婦になって子供がお腹にできなからじゃねえかと。

:: 基本がいなくなった理由

 今日、京華が発見した。ここからはめちゃくちゃ長くなるが読んでくれるとありがたい。

 死にたがりの基本。何でいなくなったか。それはこの身体が14の頃に戻る。親は九歳離れた妹が産まれてすぐに離婚した。おかげで俺らは妹の面倒を全て押し付けられることになる。呪いの言葉、『一緒に生き抜いていこうね』。この言葉のせいで俺らは親の健康管理から家事、下の子の面倒を全て見ることになった。兄弟は5人。その一番上の俺ら。全てを押し付けられた。親は何をしてたかって言うと、仕事だ。5人も食わせて行くんだ、かなりの稼ぎが必要になる。高熱が出ていようと、玄関で倒れようと、帰ってきて何にもできないぐらい疲弊しようと、親は仕事に行った。おかげで俺らはある程度学歴も持つ事ができている。そこは感謝している。問題は、俺らが14になったぐらいの時だ。あまりの大変さに基本は学校に行くことができなくなった。不登校というやつだ。いじめを受けていた訳ではないがそれでも、いけなくなった。約1か月ぐらいか。その頃、1個下の弟が、痺れを切らしたんだろう。俺らの部屋に乗り込んで来た。その日は休日だったが、その弟は部活があってな、制服を着て乗り込んで来た。そのときなんて言われたかは覚えてねえ。けど、一言は覚えている。『死にてえなら死ねよ』。それだけは覚えている。そこにカチンときたのが俺だ。死ねねえんだよ。苦しくてもお前らがいるし、親の面倒は誰が見るんだ。親はその頃、摂食障害を無自覚に引き起こしてて、体重が35kgぐらいしかなかった。食べもんは職場でのカロリーメイト1本のみ。そんな状態の親を見捨てて死ねる訳なかった。だが、ヤツは言いやがった。そこにカチンときた。広めの部屋に引っ張りつれて行き暴力でボコボコにした。ヤツも抵抗はしたさ、でもキレてる俺には痛みなんて感じなかった。動けなくなるまでヤツをボコボコにした。ヤツは俺が部屋から出て行く時に一言言った。『死んでやる』。俺は死ねないとわかっていたから、『死ねるもんなら死んで見ろ』と返した。これが昼のことだ。そこから3時間。ヤツは忽然と姿を消した。外に出た様子はない。じゃあどこに?俺らの実家は団地でさ、8階に住んでたのな。まさか飛び降り?そんな馬鹿な。発見者はまだ幼い妹。下にヤツがいるよ。それだけ。俺らと親はとんでベランダに行ったさ。横たわったまま動かないヤツがそこにはいた。確かにいた。親は急いで救急車手配。後のことは俺らに任せるといって出ていった。そこからは地獄。警察が10人以上家に雪崩こみ、事情聴取。妹、他の弟たちは信頼できる親の友達の家に退避。残された俺らは警官に取り囲まれて話をする。そこからの記憶はない。気付いたら病院。ヤツは死んでいた。触ってあげてと無表情の親に言われたが触れたのは掌のみ。冷たかった。氷みたいに冷たかった。今でもその感触はフラッシュバックで返ってくることがある。

 そこからだ。殺したのは私。殺したのは私だ。基本がいなくなった。その代わりに出てきたのは暫定さんと呼ばれる人格。その後の葬儀、納骨式、全て暫定さんが泣もせずこなした。親の摂食障害と泣きじゃくる兄弟の面倒を見ながら。

 これが俺らの十字架。一生消える事のない十字架。

 きっと基本が今になって出て来たのは命を授かったから。きっとこれからも基本は死のうとするだろう。でも、必ず、俺らが食い止める。必ずだ。

 

エル

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