ロボットになりたかった

 弱みを見せたくない彼女。泣くことは許させなかった。動くことを強制され、動けない体に傷を作った。自分に欺いて、心を殺して。

 痛みで体を動かす。体にスイッチを入れる。私はそうしないと生きては行けなかった。体が言うことを聞かない。重い苦しい。だけど、社会では通用しないこの感覚。普通の人になる為には適応していかなくてはならなかった。予定は詰まっている。学校、仕事、稼ぐこと、お風呂に入って清潔にすること、食事をすること、トイレに行くこと、何もかもしなくてはならないこと。動けないでは片付けられないことが山積みの生命活動。弱みは見せてはならない。人の手を借りる事はしてはならない。迷惑をかけてはならない。誰もわかってくれはしなかったこの辛さ。苦しさ。なら、なら、傷を体に刻んで見せればわかってくれるの?傷をつけた。痛みに体は反応した。動いた。こうすれば動けるのか。やっと気づけた。私はそこから傷を付けて動く手段を手に入れた。見えないところに傷をつける。痛み刺激が体を動かす。きっと心は望んではいない。わかっていても動く為には必要な犠牲だった。動けない事、辛い事、苦しい事、どんなに訴えても、医者も看護師も親も分かってはくれない。気の持ちよう、やる気がないだけ、嘘だ、私達はあなたの介護をする為にいるわけじゃない、本当は動けるのでしょ。みんなみんな、嘘つき呼ばわり。誰もが理解しようとしない。だから、私も心を強制的に排除した。分かってくれないものはいらない。泣いても何にもならない。なら、体に刻んで見せれば、分かってくれるだろう。体に傷をつければ、動けるだろう。その為には手段は選ばない。どうせ分かってくれないならそんな心、捨ててしまえ。気持ちなんて無駄なものだ。社会にはいらない。普通の人になるにはいらない。心を押し殺し、感情を刃に込めて傷を刻む。構って欲しいわけじゃない。気づいて欲しいだけだ。でも、誰もが分かってはくれない。年月が過ぎた。気付いてくれないことに慣れてしまった。本当の気持ちを忘れた。ただ動く為には傷を痛みを付けるんだと思い込んでいた。初めて今日、私は思い出した。そうだった。動く為じゃなかった。気付いて欲しかったんだ。分かって欲しかったんだ。本質に気付いた時、私と言う人格が生まれて、初めて泣いた。自然と泣いていた。心を押し殺したはずの私が、感情を刃に込めていた私が、初めて泣いた。泣けた。嬉しくはない。でも、私と言う本質がわかった気がした。やっと、私と言う存在が、生まれた理由がわかった。初めて、理解した。

 私はこれからどうなるかはわからない。また自傷をするかもしれない。でも、本質を知った今、何かを変える努力はできるだろう。気付いて欲しかった。それが私の核心。本質。存在意義。ここからが人格としての成長を始めるスタートラインだ。心を取り戻す努力をしよう。感情を刃以外に表現できる方法を探そう。動けない体を受け入れていこう。そう思えた。そう、感じた。そう考えられた。前向きに考えられた。泣いてもいい。叫んでもいい。ここにはそれを受け入れてくれる人がいるのだから。嘘つき呼ばわりしないでわかってくれる人がいるのだから。

 

 奈都妃の声。感情を初めて本音を聞いた私、京華はこれを書かざるを得なかった。私は1度奈都妃の事を書いてはいる。しかし、それは本質ではなく、表面だけの上部だけの形だった。私も今回学ばされた。こんな感情が隠されているなんて思ってもいなかった。感情は一枚岩ではない。隠されて隠されてそれを読み取る難しさ。素直な人格だけではない。みんな何らかの過去があり、本質が眠っているんだわ。奈都妃から私はそれを学ばされ、思い知らされた。本質は彼女、彼らしか知らない。流れてくる物が本物かどうかは私が決めるものではなくて本人だけ知るもの。私はもしかしたら、知ったかぶりをしていたのかもしれない。

 

京華

関連するかも知れない記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です