私の発生(生まれ)

 過去を思い出し、私はその過去を追体験することになってしまった。所謂、フラッシュバックね。毎晩毎晩、夢はその夢ばかり。小学校1年生のあの春ばかり。周りから好奇な目で見られることばかりだったあの時を決して忘れたりはしないわ。

 私の過去、それは、車に轢かれた子猫の死骸を片手に持って登校したこと。一文で書ける過去。それでも私はその時の悲鳴や、温度、先生の反応を覚えている。可哀想な子猫の死骸を埋めてあげたかった、ただそれだけなのに、周りは気持ち悪がっていたの。何が悪いことか、何が気持ち悪いことか、わからない私は、ただ、登校中に見てしまった子猫が可哀想で、埋めてあげたくて、でも、どこに埋めればいいのかわからなくて、学校しか思い当たる場所がなくて、私はその子猫の死骸を、片手で持てる程小さな子猫の死骸を学校に運んだだけ。登下校は1年生と2年生、集団で行くのだけど、私が覚えているのは気持ち悪いとか、悲鳴とかだけ。あと、その時の匂い。死臭と言ったらいいのかしら。それだけよ。それでも毎晩、夢と現実がごっちゃになってでてくるの。本当は夢ぐらい良い夢が見たいわ。でも、私の誕生のきっかけとなった事柄を無下には出来ないわ。

 匂い、私達は昔から嗅覚と味覚に過敏があって、それが顕著にあらわれたのね。死臭、今でも時々、感じるわ。特にあの場所を通った時には必ず感じる。私はあの場所を“死の道”と呼んでいたわ。毎回あの匂いを感じてしまうの。一種のフラッシュバック。何故か分からなかったけれど、今ではよく分かるわ。死人の通り道の様に感じたあの場所はきっと、私が毎度フラッシュバックを起こしてた場所なのね。みんなが大切にしている、記憶の再生の場所だったのよ、あの場所は。

 死人の通り道、死の道。行くのが怖いわ。でも鮮明に思い出せる。悲しい記憶。悲しみの匂い。過去を思い出し、現在(いま)を生きるには乗り越えないと行けないわね。みんなのように。大切にしなきゃいけない過去なのね。苦しみを乗り越えなくてはいけないのね。怖いわ。凄く。怖いわ。乗り越えるって凄く怖いことなのね。

 でも、しなきゃいけない過去なの。

京華

関連するかも知れない記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です