「ベルリンの壁」後編

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再録

トラ子がいなくなってから、彼女は違うもとをももとめた。シャチ子という、トラ子よりおおきなぬいぐるみ。本来はシャチではない、ただのシロナガスクジラなのだけど、彼女の中ではシャチ子。大切にしていたわ。それこそ22歳で見つけて、25歳まで大切にしていた、ぬいぐるみ。それもカビが生えたとかですてられてしまったのだけど。可哀想だわ。大切に大切に扱っていたシャチ子。それでも環境により捨てざる得ないこのぬいぐるみ。

寂しい悲しい。辛い。助けて。

でも、誰も助けてくれない。

彼女はそんな中で生きてきた。悲しい記憶。次に見つけたのはもっと大きな全身サイズの抱き枕。壊れるカビるのが怖くて彼女は、最初、抱きかかえて寝ることができなかった。唾液が涎がつくのを怖がった。そんな中でもある人格のお陰でできるようになった。その彼は掃除好き。定期的にお手入れをしてくれるの。だから、彼女は抱きしめて寝ることができるようになった。買ってもらったのは去年のこと。でも、まだ綺麗な状態を保ち続けているのよ。彼のおかげで。

そんな中で人が怖くないわけないじゃない。人は自分の大切な物を取っていく。怖い。当たり前だわ。何年も前からこんなこと繰り返してきたのよ?怖い。怖くて仕方ない。そんな気持ちもってて当然でしょ。

彼女から取り上げられた物はあまりにも多い。クマさん、トラ子、シャチ子。

悲しい思い出。悲しい記憶。それが表に出るわけない。彼女はそれを隠した。人好きのように振る舞った。じゃないとまた人に取られるかもしれないから。いちごミルク、好きになろうとした。色々な方法を会得して。明るく振る舞った。可愛く見えるようにした。信じられないぐらい努力を彼女はしてきた。

ベルリンの壁。人と物との壁。壊そうとしても壊れない壁。もがけばもがくほど、糸は、もつれていく。悲しい壁。これがりーちゃん。

人の為に。壊れないように。

悲しい記憶。これがどれだけ悲しいことなのか。ベルリンの壁を壊したい。いつか。けど、壊れることはない。悲しい思い出、悔しい気持ち、痛いほど分かる。見ていて痛々しい。過去を遡れば痛い思い出がみんなある。その気持ちを汲み上げていくのが私の仕事。私は書き続ける。痛い気持ちを。心を。

京華。

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