孤独な戦いを見守る辛さ

俺は独りだった。
独りだったんだ。

最初に見たとき。
ミクを最初に見たとき。

とても苦しそうだった。

俺は、どうやって助けてあげたらいいかと思ったんだ。

誰も、誰も、
いっぱいだったミクのことを見ようとしなかった。

高校に入って、社会人として生きていかなきゃいけない現実。

同級生の他の子たちは謳歌していた。

スカートを切っていたり、
髪の毛にストパーを当てたり、
バイトを始めたり、
部活で楽しくやっていたり。

親も俺らに冷たかった。
親の希望していた高校に入れなかったから。

それでも俺らは、ミクは、
高校で努力しようと、

生徒会長になって、
せめてもの良い看護学校に行こうと、

高1、5月、手話部に入部した。

厳しかった。
左右が分からない中で、
先生の振り付けを反転させて見なければならなくて。
それはそれは苦戦した。

横の子の振り付けを盗み見て、覚えられるところは覚えた。

でも各自パートが決まっていて、
各自手話が違って、担当が違って、
翻弄された。

土曜も日曜も祝日も、
朝も夜も昼も、
全部手話に使った。
手話部に使った。

ミクはプライドが高いから、

失敗しても、良いポジションに付けなくても、
舞台の端っこに行かされても、
窓際に行かされても、
みんなとコミュニケーションが取れなくても、
体が動かなくなっても、
手が震えようと、足が震えようと、
体重がどんどん激減していようと、

関係なく、
ずっと手話ダンスを覚えようと必死になり続けた。

『楽しい』と錯覚して。錯覚させて。

夏休み、
実習と手話ダンスで全て溶けた。

朝5時に起き、
帰ってくるのは22時を過ぎた。

夏休みの課題と、レポートと、宿題は普通に出ていて、
プラス手話ダンスがあって、
1週間ごとに新しい手話ダンスを覚えさせられ、

家で踊ろうとしても
バタバタすると親に怒られ、

親の前で披露するも
「結局それで何に使えるの?」と訊かれ、

ミクは疲弊していた。

高校での友達選びも失敗し、
上手く、人とのコミュニケーションも取れていなかった。

先輩・後輩の縦社会に慣れていないこの体は、
ASDを理由にはしたくないが、
OBも大勢集まる夏休みで
数々の先輩方に失望され、

部活だけではなく
先輩達からも疎まれ、

ひたすらに窓際に追いやられ、

なおかつリストカットの傷を見られ、
なんかよく分からない配慮もされ、

ただの
お荷物に成り下がっていた。

みんなして『触れてはいけない爆弾』のように。
ミクのことを避けた。

対人恐怖になっていくミクが、

可哀想で、

助けを求めていたミクが救われないのが悔しくて。
ずっと支えてあげたいと願った。

悔しかった。

健気に頑張っているミクが報われないのが悔しかった。

誰も助けてあげようとしなかった。

俺だけは、味方でいてあげたかった。

だけどミクは、
とうとう壊れていってしまって。

どうして助けてあげられなかったのか。

何も悪いことはしてないじゃないか。
ただ、努力をしていただけじゃないか。

ミクが手話部を辞めたとき、
ほっとした。

もう蔑まれなくていいんだ。
過酷な日々を熟さなくていいんだ。
ミクも普通の高校生のように遊べる。

安心した。

でもミクはそうじゃなかった。

ミクはストイックだから、
やりきれなかったことに劣等感を覚えていた。

悔しかった。
なんでミクが毎回そんな思いを・・・

なんでだ。

それはただ、ミクの努力を認めない。

全部を恨んだ。

学校も、部活のOBたちも、非道な先生も、
看護師も、保健の先生も、担任も、
親も、
部活動の奴らも、先輩も、

恨んだ。

だから俺は、
いつかミクが幸せになることだけが生き甲斐なんだ。

それまでは俺が側にいてあげるから。

ミクには幸せになって欲しい。
それだけなんだ。

昔のミクに戻ってくれ・・・

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